ょうだん》じゃないわ。あんなところに、お勤めしていても、あたしだけは真面目で通したのよ。だから、日に四百円ぐらいしか、平均の収入なかったのよ」
その前、彼女が私に逢いたく、姉の許《もと》に来た時には、日に二百円の収入しかないとこぼしていたと私は聞いていた。けれど、それも彼女のみえっぱりの罪のない嘘だろうと、私はなにもいわなかった。金がなくなって前に関係していた異国人から貰った時計のエルジンを千五百円で売ったとも、いま七、八百円の金しかないともいった。私は彼女と別れる時、置いていった金から推量して、まだ一月ほどしか経たぬのに、それも嘘に違いないと思った。
けれど私はなにもいわずに、その夜は自分の本を売って金を作り、ふたりで酒をのみ、肉鍋をつついて、楽しく遊んだ。一月もむなしかった私の欲情も、その夜から執拗《しつよう》なものになった。さすがの桂子も痛がって、それを厭《いや》がるほどだった。いつになく、局部を痛がる桂子にお人好しの私はなんの疑念も持たなかった。ただ依然として、彼女は無知で純情で、可憐《かれん》そのもののように、私には感じられた。
はじめの約束では、私は、月に時々そうして
前へ
次へ
全42ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング