野狐
田中英光
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)同棲《どうせい》して、
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)作家|飢饉《ききん》で、
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ひとのいう、(たいへんな女)と同棲《どうせい》して、一年あまり、その間に、何度、逃げようと思ったかしれない。また事実、伊豆のM海岸に疎開のままになっている妻子のもとに、度々戻ったこともある。
しかし、それはいつも完全に逃げられなかった。(たいへんな女)が恋しく、女房の鈍感さに堪えられなかったのである。たいへんな女、桂子の過去を私はよく知らない。私は桂子と街で逢った。けれども普通の夜の天使と違った純情さと一徹さがあると信ぜられた。
私との商取引ができた後、私は四、五人の逞《たくま》しい、異国人たちに取囲まれ、喧嘩《けんか》になった時、彼女は最後まで私の味方だった。また一緒にホテルにいった後、彼女は包まず、自分の恥ずかしい過去を語り、流涕《りゅうてい》し、しかも歓喜して私の身体を抱いた。私は生れて初めて、肉欲の喜びを知ったと思った。彼女がいっさい、包まず、自分の過去を語ったと思ったのは私の錯覚であ
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