グルウム》で、麻雀《マアジャン》でもするか、コリントゲエムでもやっている連中が多かったのです。
 そういう時、ぼくは独《ひと》り、甲板の手摺《てすり》に凭《もた》れ、泡《あわ》だった浪《なみ》を、みつめているのが、何よりの快感でした。あなたとは、もう遊べませんでした。で、ぼくは、あなたとレエスのことばかり、空想していました。ボオトは、勝負はとにかく、全力を出し切らねばならない。全力を出し、クルウが遺憾《いかん》なく、闘《たたか》えたとします。そうしたら日本に帰って、あなたと堂々と結婚《けっこん》できると思う。
 そんな風に楽しい空想を描《えが》いているときでも、絶えず、先輩達の眼、周囲の口が、想われて、それがなにより厭《いや》でした。こうした悪意に対して、ぼくは、それを、じっと受け応《こた》えるだけで、精一杯《せいいっぱい》でした。
 当時、ぼくは二十|歳《さい》、たいへん理想に燃えていたものです。なによりも、貧しき人々を救いたいという非望を、愛していました。だから、その頃《ころ》、なにか苦しい目にぶつかると、あの哀れな人達《プロレタリアアト》[#「哀れな人達」にルビ]を思えと、自分に
前へ 次へ
全188ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング