の襞《ひだ》も崩れ、手巾《ハンカチ》を冠《かぶ》って強風にあおられている。あなたは、朝の印象もあって、ばかに惨めにみえました。が、その苦しさも、ハワイの素晴しい自然が、すぐ慰《なぐさ》めてくれ、甘いものとする。そう考えるほど、ぼくは自分のなかだけで、恋情を育てていたのです。
午後から、ハワイのロオイング倶楽部《クラブ》に、招待されて練習に行きました。
コオスはほんとうに、草花につつまれているのどかさで、小波《さざなみ》ひとつなく、目にみえる流れさえない掘割《ほりわり》でした。隅田《すみだ》川の濁流《だくりゅう》、ポンポン蒸汽、伝馬船《てんません》、モオタアボオト等に囲まれ、せせこましい練習をしていた、ぼく達にとって、文字どおり、ドリイミング・コオスといった感じです。艇《てい》は、固定席《フィックス》が滑席艇《スライデング》に移るまえにあった。ドギュウと日本では称しているような昔|懐《なつか》しいもの。それにオォルの握《にぎ》りも太く、ブレエドの幅《はば》も広く、艇は遅《おそ》いけれど、バランスがよく、舟足も軽い。まっさおい水の上に、艇をポオンと置いてから、約|一月《ひとつき》ぶり
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