く》で睨《にら》みつけます。三番の、もとはぼくを正選手《レギュラア》に引張ってくれた、沢村さんまでが、「あんな女のどこが好いかのう。女が珍《めずら》しいのじゃろう。不思議だのう」と、みんなに訊《たず》ねるようにするのが癖《くせ》でした。二番の虎《とら》さんは、広い胸幅を揺《ゆす》りあげ、その話をするときは、ぼくを見ないようにして、「でれでれしやがって」と、忌々《いまいま》しそうに、痰《たん》を吐《は》きとばします。この態度が、むしろ、好きでした。
舳手《バウ》の梶さんは、ぼくの次に、新しい選手ですし、それに、七番の商科の坂本さん、二番の専門部の虎さんと共に、クルウの政経科で固めた中心勢力とは、派が合わぬだけ、別に何んともいわず、皆と一緒《いっしょ》にいるときは、軽蔑《けいべつ》した風をしていますが、ひとりで逢うと、時々、「おおいに、若いときの想《おも》い出《で》をつくれよ」とか、文科の学生らしく、煽動《せんどう》してくれました。こうして、好意とまでゆかないでも、気にしないでいてくれる、梶さん、清さんのような人達もありましたが、前述したような、クルウ大方の空気は、ひがんでいるぼくにとっ
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