気になるのでしたが、同時に、誰でもが持っている岡焼《おかや》き根性とは、いっても、クルウの先輩連が、ぼくに浴《あ》びせる罵詈讒謗《ばりざんぼう》には、嫉妬《しっと》以上の悪意があって、当時、ぼくはこれを、気が変になるまで、憎《にく》んだのです。
その頃《ころ》、整調でもあり主将もしている、クルウでいちばん年長者の森さんは、ぼくをみると、すぐこんな皮肉をいうのでした。「大坂《ダイハン》は、熊本と、もう何回|接吻《せっぷん》をした」 とか 「お尻《しり》にさわったか」とか、或《ある》いは、もっと悪どいことを嬉《うれ》しそうにいって、嘲笑《ちょうしょう》するのでした。
七番のおとなしい坂本さんまでが、「大坂《ダイハン》は秋ちゃんと仲が良いのう」とひやかし半分に、ぼくの肩《かた》を叩《たた》きます。六番の美男の東海さんは「螽※[#「※」は「虫へん」に「斯」、39−6]《きりぎりす》みたいな、あんな女のどこが好いのだ。おい」と、ぼくの面をしげしげとのぞいて尋《たず》ねます。五番の柔道《じゅうどう》三段の松山さんは、「腐《くさ》れ女の尻を、犬みたいに追いまわしやがって――」とすごい剣幕《けんま
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