スは直ぐ、真紅《まっか》な顔になって、部屋に帰ってしまいましたが、そのときぼくがあなたを撲《なぐ》りつけたい腹立たしさで、一隅《いちぐう》から笑いもせずに睨《にら》みつけていたのを御存知ですか。
ぼくはあなたへの愛情に、肉体を考えたことがないと前にも書きました。帰朝してから随分《ずいぶん》色んな歓迎会も催《もよお》して頂き、酔ったあとで友達同士、女遊びをする機会も多かったのですが、ぼくはどんな場合でも、芸者なり商売女に、「ぼくにはだいじな女《ひと》がいるから、悪いけれど気にしないで」とまともな顔で断って、指一本、彼女達《かのじょたち》に触れたことはありませんでした。
帰って暫《しばら》くして、銀座のシャ・ノアルにクルウが揃《そろ》って行ったことがあります。初めに書いた、嘗《かつ》てぼくの童貞《どうてい》とやらに興味を持ったN子という女給もいれば、松山さんも沢村さんの女達もいるカフエでした。ぼく達が入って行くと、マスタアが挨拶に来るは、女給が総出で取り巻くは、大変なものでした。
ぼくはその頃《ころ》むやみに酒を飲むようになっていましたから、一人でがぶがぶと煽《あお》り、手近に坐《す
前へ
次へ
全188ページ中181ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング