ぺん》のガアデン・ルウムに入ろうとすると、ぴったり足がとまりました。緑|滴《した》たる芭蕉《ばしょう》の葉かげに、若い男女が二人、相擁《あいよう》しあって、愛を囁《ささや》いているのです。それだけをみて、ぼくはくるりと引っ返し、競争を廃棄《はいき》しました。算盤をかえして、次にベレエ帽をかえすとき、内田さんは、「ぼんち、どうして止《や》めたの」と訊《き》かれ、「草の葉がなかったんだ」と答えると、「莫迦《ばか》ね。ここにあるじゃないの」と彼女の胸にさしていた、忘れな草の造花を差出してくれました。

     二十三

 再び青きハワイ――。

 ワイキキ。プウルを村川と二人、平泳の競泳をしながら、日本へ帰ったらうんと遊ぼうや、とつまらない約束《やくそく》をし、プウルから上がり、脱衣場《だついじょう》に戻《もど》って行ったら、まんまと五|弗《ドル》入りの財布《さいふ》を盗《ぬす》まれていました。

 ホノルルの日本領事館で、官民合同の歓迎会《かんげいかい》が催《もよお》されたのち、邦人《ほうじん》の方の御好意《ごこうい》で、選手一同ハワイの名勝ダイヤモンド・ヘッドからハナウマイヘかけて、見
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