、大きな亀《かめ》の子を二|匹《ひき》、記念に貰《もら》い頸《くび》に紐《ひも》をつけ、朗《ほが》らかに引張って歩いているのが目立っていました。アメリカ人に、「Mayachita, Mayachita」と呼ばれて人気のある水泳の宮下も、船橋《ブリッジ》の上で手を打ちふりながら、いつ迄《まで》も熱狂《ねっきょう》的な歓送に応《こた》えていました。負けて還るほうは、拳闘《けんとう》の某氏《ぼうし》のように責任を感じて丸坊主《まるぼうず》になったひともいましたが、やはり気恥《きはず》かしさや僻《ひが》みもあり張り詰《つ》めた気も一遍《いっぺん》に折れた、がっかりさで、ぼくは雑沓《ざっとう》するスモオキング・ルウムの片隅《かたすみ》にしょんぼり腰《こし》を降ろしていたのです。
あなたとのことも、往《い》きの船では、帰りの船でこそ話もしよう遊びもできようと、あれやこれや空想を描《えが》いていたのですが、さて眼前、現実にその時が来てみると、最前、船のタラップを、服《ドレス》も萎《しお》れ面《おもて》も萎れて登ってきたあなたの可憐《かれん》な姿が目のあたりにちらつきながら、手も足も出ず心も痺《しび
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