ほえ》みながら、次の部屋へのドアを開けると、戸口に一人のギャングが立ちはだかり、ピストルをつきつけています。こちらは可笑《おか》しくなってきて、ニヤニヤすると、向うも、毛色の変った、ジャップの少年なので、気抜《きぬ》けしたのか、ニヤッと笑いかえして引込《ひっこ》みました。
次から、次へ、仕組んであるマジックも、ことさら故意《わざ》とらしくみえ、「つまんないの」と呟《つぶや》きながら、興味なく歩いている、ぼくの瞳《ひとみ》に、ふと映ったのは、薄暗い片隅《かたすみ》でなにもかも忘れ、ぴったり抱擁《ほうよう》しあっている、うら若い男女でした。こればかりは実物で、見ていてもこちらがへんになるくらい熱烈《ねつれつ》なながい接吻《せっぷん》をしています。これには、いちばん駭《おどろ》いて、部屋の端《はし》にあった階段を、むちゃくちゃに駆《か》けあがりました。二三十段も駆けあがり、次の一足を踏みだそうとすると、足に触《ふ》れるものがありません。階段だけで、二階の床がないのです。慌《あわ》てていたこととて、思わず眼下の暗黒のなかに、くらくらっと陥《お》ちかけたとき、足もとの階段が、独りでに、すうっと
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