トロオの養狐場《ようこじょう》を、ただ訳もなく遊び歩いたのも、ひたすら手近な享楽で、眼の前に蓋《ふた》をしている気持でした。
夜、ロスアンゼルスからの帰りに、自動車を停《と》めさせ、皆《みんな》が一斉《いっせい》に降りたって、小便をしたとき、故国日本を想《おも》いだすような、蛙《かえる》の鳴声をきいたことも、仄《ほの》かに憶《おぼ》えています。或いは、海水浴場の近くで、六十|歳《さい》前後の老人夫婦から、十五歳位の少年少女のカップルに至《いた》るまで、ダンスを愉《たの》しんでいるホオルを覗《のぞ》いたことも、ダウンタアオンで五|仙《セント》を払《はら》い、メリイゴオランドの木馬に跨《また》がったことも、ボオルを黒ん坊《ニグロ》[#「黒ん坊」にルビ]にぶつけて、亜米利加《アメリカ》美人を落したことも――。
その黒ん坊が、意外にも日本人だったのです。虎《とら》さんが、ボオルを握《にぎ》って、モオションをつけると、いきなり黒ん坊が鮮《あざ》やかな日本語で、「旦那《だんな》はん、やんわり、頼《たの》みまっせ」と言い、ぼく達が、驚《おどろ》き呆《あき》れていると、「顔は黒う塗《ぬ》ってますが
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