だ》に響《ひび》いたピストルは、過去二年間にわたる血と涙《なみだ》と汗《あせ》の苦労が、この五分間で終った合図でもありました。
 そのときのぼく等の様子を、当時の羅府《ロスアンゼルス》新報が、こんなに報告しています。
※[#二重かっこ開く]夕刻のロングビイチは鉛色《なまりいろ》のヘイズに覆《おお》われ、競艇《レギャッタ》コオスは夏に似ぬ冷気に襲《おそ》われ、一種|凄壮《せいそう》の気|漲《みなぎ》る時、海国日本の快男児九名は真紅《しんく》のオォル持つ手に血のにじめるが如《ごと》き汗を滴《したた》らしつつ必死の奮闘《ふんとう》を続けて遂《つい》に敗れた。この日、我が稲門健児《とうもんけんじ》は不幸にも、北側の第一レインを割り当てられ、逆風と逆浪《げきろう》の最も激《はげ》しい難路を辿《たど》らねばならず、且《か》つ、長身に伍《ご》して、短躯《たんく》のクルウを連ね、天候さえ冷え勝ちで、天の利、地の利、人の利、すべて我々に幸いせず。頼《たの》むは、日本男児の気概《きがい》のみ、強豪《きょうごう》伊太利と英国を向うに廻し、スタアトからピッチを三十七に上げ、力漕、また力漕、しかも力|及《およ》
前へ 次へ
全188ページ中119ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング