大きな声ではいえぬことです。その日、フウバア大統領の前を、颯爽《さっそう》と、分列行進をしていった女子選手達のうちに、あなたのりりしい晴れ姿をちらっと垣間見《かいまみ》ました。はるかな美しさで、ぼくは、そッと、瞼《まぶた》のうちに、蔵《しま》っておいた。

     十七

 オリムピックのなかでも、青《ブリュウ》リボンと呼ばれる、壮麗《そうれい》なレガッタのなかで、ぼくには、負けて仰《あお》いだ、南カルホルニアの無為《むい》にして青い空ほど、象徴《しょうちょう》的に思われたものはありません。

 スタアトラインに並《なら》んで「ムッシュ。エティオプレ」「パルテ」という出発の号音を聞いたときは、ただ漕《こ》いだ。並んだ、剣橋《ケンブリッジ》クルウのオォルの泡《あわ》が、スタアト・ダッシュ、力漕《りきそう》三十本の終らないうちに、段々、小さくなり、はては消えてゆく。敵の身体《からだ》がみえていたのは、本当に、スタアト、五六本の間で、忽《たちま》ち、グイグイッとなにかに引張られているような、強烈な引きで彼等《かれら》の身体は、ぼくの眼の前から、消えてゆき、あとには、山のように盛《も》り
前へ 次へ
全188ページ中117ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング