オリンポスの果実
田中英光

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)可笑《おか》しい

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)神経|衰弱《すいじゃく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)起上り《レカバリー》[#「起上り」にルビ]

底本のダブルミニュートは、「“」と「”」に置き換えた。
−−

     一

 秋ちゃん。
 と呼ぶのも、もう可笑《おか》しいようになりました。熊本秋子さん。あなたも、たしか、三十に間近い筈《はず》だ。ぼくも同じく、二十八歳。すでに女房《にょうぼう》を貰《もら》い、子供も一人できた。あなたは、九州で、女学校の体操教師をしていると、近頃《ちかごろ》風の便りにききました。
 時間というのは、変なものです。十年近い歳月が、当時あれほど、あなたの事というと興奮して、こうした追憶《ついおく》をするのさえ、苦しかったぼくを、今では冷静におししずめ、ああした愛情は一体なんであったろうかと、考えてみるようにさせました。
 恋《こい》というには、あまりに素朴《そぼ
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