で一寸と口を切ってから、また落着いた嗄《しゃが》れ声にかえり「然《しか》し、実際女の選手ってだらしがねエな」と村川を顧《かえり》みれば、村川も即座《そくざ》に、「じッせえ、女流選手っていうのは、なっちゃいないね」と合槌《あいづち》を打ちます。ぼくは無責任な批評をするな、と腹がたちましたが、金沢は続いて無造作に、「しかし誰かに言い触らすようなことはしないよ。それは約束《やくそく》します」という。その言い方に、ぼくはふッと、彼の大人を感じると、なにか信用して好い気になり、安心すると同時に、一遍《いっぺん》に気恥《きはず》かしくなってきて急いで、彼の部屋を辞しました。
 無茶苦茶に駆《か》けあるきたいような衝動《しょうどう》にかられて、階段をかけ上って行くと、森さん、松山さん、沢村さん達がいずれ麻雀《マアジャン》でも果てたあとか、たくましく笑い合って降りて来かかり、血走ったぼくの様子をみると、顔見合せて、更《さら》にどっと笑いたてました。
 てッきり、あなたの一件で笑われたと、ぼくは尚更《なおさら》、口惜《くや》しがって、あなたを捜しまわりましたが、その晩は遂《つい》に見つからず、また不眠《ふみん》の夜を送りました。
 翌日、海は晴れていた。ぼくは、あなたを探して船の上から下まで馳《は》せめぐった。逢ってなにか一言いわなければ、納まらない気持だったのです。その日も、むなしく海が暮《く》れました。ぼくはスモオキング・ルウムの一隅《いちぐう》に坐《すわ》り、ひとり薄汚《うすよご》れた感傷を噛《か》んでいました。
 その頃《ころ》の流行歌の一節に、※[#二重かっこ開く]花は咲くのになぜ私だけ、二度と春みぬ定めやら※[#二重かっこ閉じ]というのがありました。ぼくは其処《そこ》のところが、奇妙《きみょう》に好きで、誰もいないのを幸い、何遍も何遍もかけ直しては、面をたれて、歌をきいていました。
 逢魔《おうま》ケ時《とき》という海の夕暮でした。ぼくは電燈もつけず、仄暗《ほのくら》い部屋のなかで、ばかばかしくもほろほろと泣いてみたい、そんな気持で、なんども、その甘《あま》い歌声をきいていました。その時ひょいと顔をあげると愕然《がくぜん》としました。あなたの仄白い顔が、窓から覗《のぞ》いているのです。あんなに捜してもみつからなかったのに、一体どこにかくれていたんです、とも言いたく、お元気でなによりですと、喜んでもあげたかった。
 が、驚《おどろ》きのほうが強く、まじまじ目を見開いているぼくの顔にあなたは「ぼんち、今晩は」と笑いかけ、寂《さび》しさに甘えようとしているぼくの表情が判《わか》ると、ふッと身体《からだ》を乗りだし「そんなとこで、なにしてんの。ホホ……」と少しヒステリカルに笑い、顔見合せると急に笑い止《や》んで、やるせない沈黙《ちんもく》の瞬時《しゅんじ》が流れましたが、ふっと表情をかえたあなたは「ぼんち映画みに行かないの」といい棄《す》てたまま、くるりと身を翻《ひるが》えし、甲板《かんぱん》の端《はし》の映画場のほうへ行ってしまいました。
 機械的に、そのあとから、ぼくも跳《は》ねおき、活動を見に急いだのです。
 映画は、むかし懐《なつか》しい大河内伝次郎主演、辻吉朗監督『沓掛《くつかけ》時次郎』でありました。ところは太平洋の真唯中《まっただなか》、海のどよめきを伴奏《ばんそう》にして、映画幕は潮風にあおられ、ふくれたり、ちぢんだりしています。見物人は船客一同に加えて、満天の星と、或《ある》いは、海の鱗族《うろくず》共ものぞいているかも知れません。
 ぼくは、舷側《げんそく》の手摺に凭《もた》れて、みんなの頭越しに、この傷だらけのフィルムを、ぼんやり眺《なが》めていました。
 義理人情に絡《から》まれた男、沓掛時次郎の物語はへんてこに悲しいものでした。それに、説明を買ってでたレスラアB氏の説明が出鱈目《でたらめ》で、たとえば※[#二重かっこ開く]助《すけ》ッ人《と》※[#二重かっこ閉じ]と読むべきところを※[#二重かっこ開く]助人《じょにん》※[#二重かっこ閉じ]と読みあげるような誤《あやま》りが、ぼくには奇妙な哀愁《あいしゅう》となって、引きこまれるのでした。飾《かざ》りのない束《たば》ね髪《がみ》に、白い上衣《うわぎ》を着たあなたが項垂《うなだ》れたまま、映画をまるで見ていないようなのも悲しかった。
 映画が済んで、みんな立ってしまったあと、ぼくは独り、舷縁《ふなべり》に腰《こし》を掛《か》け、柱に手をまいて暗い海をみていた。青白いスクリインは、バタバタと風に煽《あお》られ、そのまえに乱雑に転がったデッキ・チェア、みんな、虚《むな》しい風景でした。
 もう、なんにも、あなたに言いたくなくなって、ぼんやり、一等船室の大広間に足を踏《ふ》
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