けつ》笑いしてから、上原なんかと行ってしまいました。
周囲には、女の選手達、殊《こと》にちびの中村さんも居ましたので、ぼくは完全に度を失い、立ち去ろうとすると、中村さんが、少女らしく、傍《そば》にいる七番の坂本さんに、「ぼんちは身体《からだ》が大きいけれど、弱いの」と訊《たず》ねます。坂本さんは、ぼくをからかうように、「大坂《ダイハン》は温和《おとな》しいもんな」と笑います。すると隣《となり》にいた沢村さんが、大きな声で、「青大将なのよ」とぼくのいちばん嫌《きら》う綽名《あだな》を呼んでから、気持よさそうに笑い出しました。「まあ、青大将」誰《だれ》か、女のひとが、そう言って、くすッと笑うのに、羞恥《しゅうち》で消え入りそうになりながら、ぼくは漸《ようや》く、そこから逃《に》げ出したのです。
ひとりで、暗い海を暫《しばら》くみてから、寝《ね》に帰ろうと、喫煙室《きつえんしつ》のなかを通り抜けていると、一隅《いちぐう》で沢村、森、松山、東海さん達が、麻雀《マアジャン》をやっていましたが、「おい、おい」と河村さんが、ぼくを呼びとめます。
どうせまた、嘲弄《ちょうろう》されるとおもいましたが、知らん振りもできないので、近よると、「おい、さっき中村がお前のことを、ボンチと呼んでいたが、あれはお前の綽名か」とききます。「さアどうですか」と白ばっくれるのに、「どういう意味か、知ってるか」とニヤニヤ皆と目くばせしてから、尋《たず》ねます。関西弁で、坊《ぼっ》ちゃんという事じゃないですか、と正直に答えようと思いましたが、また反感を買ってもと思い、「知りません」と些《いささ》かくすぐつたい返事をすると、横から、東海さんが、大声で、「あれは関西で、白痴《はくち》のことを言うんだよ」と言えば、沢村さんも、「そうとも、ボンチはつまりポンチと同じことじゃ。阿呆《あほう》のことをいうんだぞ」と大笑い。と、森さんが、したり顔で、「ああ、それで解《わか》った。女の選手達が、大坂《ダイハン》のことをボンチとか、ボンボンとか呼んでいるのは、そういう意味か」と、言えば、松山さんも荒々《あらあら》しく、「大坂《ダイハン》よ、お前は惚《ほ》れている女から、いつも馬鹿と呼ばれているんだぞ」と罵り、そこで皆から、ひとしきり嘲笑の雨。
ぼくは、しばしポカンとしていましたが、堪《た》え切れなくなると、「そうで
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