》をとがらせ「面皰《ピムプルズ》!」と吐きつけると、バタバタ駆《か》け去って行ってしまった。あとでぼくは、練習を止《や》めてから、めっきり増えた面皰づらを撫《な》で、苦く佗《わび》しい想いでした。

 翌日、歌をかいたノオトを返したくM嬢をさがしていると、また甲板で中村さんに出会い、M嬢は船室に内田さんと二人でいるとのことなので、早く渡してあげたく、かつて一度も行ったことのない、女の船室のほうへ行き、名札のかかったドアを軽く叩《たた》くと、中から内田さんの声がものうげに「どうぞ」という。開けたとたんに、ぼくは吃驚《びっくり》しました。内田さんがたった一人で、それもシュミイズ一枚で、横坐《よこずわ》りになり、髪《かみ》を梳《す》いていたのです。白粉《おしろい》と香水《こうすい》の匂《にお》いにむっとみちた部屋でした。
 内田さんは入って来たのがぼくなのをみると、一寸《ちょっと》坐り直し「坂本さんだったの」とみあげます。ぼくは内田さんの女《セックス》に圧倒《あっとう》されて居たたまれない気持で、早々にノオトを渡し、扉《とびら》を開けて出るのと殆《ほとん》ど同時でした。会長のK博士が温顔をきびしく結ばれて、此方《こっち》に洋杖《ステッキ》の音もコツコツとやって来られたのです。ぼくは、びっくり敗亡、飛ぶようにして自分の船室に逃げ帰りましたが、内田さんの小首を傾《かし》げた横坐りの姿は、可愛《かわい》い猫《ねこ》のような魅力《みりょく》と媚態《びたい》に溢《あふ》れていて、ながく心に残りました。
 しかし、それから間もなく、KOのボオトの連中が坊主《ぼうず》になるような事件を惹《ひ》き起したとき、ぼくは、なにか危なかったと胸をなでる気持がありました。
 事件といっても、大したことではなく、村川から聞いた処《ところ》によると、皆《みんな》が酔《よ》っぱらってブリッジにいると、中村さんを始め女のひと達が二三人あがって来た。それをこちらが不良学生みたいに取囲んで、酔った勢いで、ワアワア言っていると、中村さんが、真っ先に泣きだし、それを折悪《おりあ》しく来かかったTコオチャアに見つけられ、みんなはその場で叱責《しっせき》されたばかりでなく、Tさんは主将の八郎さんに告げたので、八郎さんがまたみんなを呼びつけて烈火《れっか》のように怒《いか》り、自分から先に髪を刈って坊主になったので、皆
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