まれました。船室に持って帰って、前の頁《ペエジ》を繰《く》ってみますと、――乙女《おとめ》の君の夢よ、安かれ。――とか、高く強く速く頑張れ《アルティアスアスフォルティアスモルティアズ》[#「高く強く速く頑張れ」にルビ]中村嬢――とか、様々な文句が書いてあるなかに、Y女子監督が――鯨吠《くじらほ》ゆ太平洋に金波照り行方《ゆくえ》知れぬ月の旅かな――とかいう様な歌を書いているので、ぼくも臆面《おくめん》なく――かにかくにオリムピックの想《おも》い出《で》となりにし人と土地のことかな、――と書きなぐり、中村嬢に渡《わた》しておきました。
すると、二三日|経《た》って、甲板《かんぱん》で逢った内田さんがぼくに、「坂本さん、お願いがあるんやけれど」と珍《めずら》しく改まった調子です。「ハア」とぼくが堅《かた》くなると、今度は笑いだして、うしろに居た百|米《メエトル》のM嬢をふりかえり、「ねエ坂本さんの歌うまかったわねエ」「否《いや》、駄目《だめ》ですよ」と照れるぼくを黙殺《もくさつ》して、「ねエMさんがあなたに歌をかいて下さいって。幾《いく》つでも出来るだけ」Mさんというひとはピチピチとした弾力のある子供っぽい愛くるしい顔をしている癖《くせ》に、コケットの様な濃厚《のうこう》なお化粧《けしょう》をいつもしていました。
そこでぼくは彼女達《かのじょたち》に婉然《えんぜん》と頼まれると、唯々諾々《いいだくだく》としてひき受け、その夜は首をひねって、彼女の桃色《ももいろ》のノオトに書きも書いたり、――かにかくに太平洋に星多き夜はともすれば人の恋しき――から始まり――海の上《へ》のノオトは浪《なみ》が消しゆきぬこのかなしみは誰が消すらむ――に終る、面皰《にきび》だらけの歌を十首ばかり作りあげ、翌日M嬢に手渡そうとおもいました。
面皰といえば思いだす、面白い話があります。同船していたブラジル人で十五歳位の女の子がいて、それが大分早熟で、体操のKさんの跡《あと》ばかり追っていました。
或るときブリッジの蔭《かげ》で、Kさんの名前を呼び喚《わめ》いている女の子が、あまり一生懸命《いっしょうけんめい》に呼び探しているので、「ヘェイ、ぼくと遊ぼう」と覚束《おぼつか》ない英語でからかうと、女の子は急に貴婦人のように取り澄《す》まし、しげしげ、ぼくの顔をみていましたが、いきなり唇《くちびる
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