け去ってしまいました。
さて、ぼくは、あなたの傍《そば》のデッキ・チェアに坐《すわ》り直してはみましたが、やはり、烈《はげ》しい羞恥《しゅうち》にいじかんだような、堅《かた》いあなたの容子《ようす》をみていると、ぼくも同様あがってしまい、その癖《くせ》、意地悪いうちの連中がやってきて、なにか言うなら言え、とそのときの糞度胸《くそどきょう》はきめていたのですが、愈々《いよいよ》話をする段になるとなにから話そうかと切りだす術《すべ》をさがして、ぼくは外見落着きを装《よそお》ってはいるものの、頭のなかは火のように燃えていました。
と、自分の靴先《くつさ》きをみるともなく見詰めていたぼくの瞳《ひとみ》に、あなたの脚《あし》が写ってきました。海風が、あなたのスカアトをそよと吹《ふ》く、静かな一瞬です。短かい靴下《ソックス》を穿《は》いていたあなたの脚に生毛《うぶげ》がいっぱいに生えているのがみえました。そのときほど、毛の生えた脚をしているあなたが厭《いや》らしく見えたことはありません。
男は女が自分に愛されようと身も心も投げだしてくると、隙《すき》だらけになった女のあらが丸見えになり堪《たま》らなく女が鼻につくそうです。女が反対に自分から逃げようとすればするほど、女が慕《した》わしくなるとかきいています。そこに手練手管《てれんてくだ》とかいうものが出来るのでしょう。
ぼくは羞恥に火照《ほて》った顔をして、ちょこんと結んだひっつめの髪《かみ》をみせ、項垂《うなだ》れているあなたが、恍惚《こうこつ》と、なにかしらぼくの囁《ささや》きを待ち受けている風情《ふぜい》にみえると、再び毛の生えたあなたの脚がクロオズアップされ、悪寒《おかん》に似た戦慄《せんりつ》が身体中を走りました。
ぼくはそれ迄《まで》あなたへの愛情に、肉慾《にくよく》を感じたことがなかった。然《しか》しこの時、あなたの一杯に毛の生えた脚の、女らしい体臭《たいしゅう》に噎《む》せると、ぼくはぞっとしていたたまれず、「熊本さんは肥《ふと》りましたね」とかなんとか、あなたの萎《やつ》れを気づかっていたつい最前の自分も忘れ、お座なり文句もそこそこに、立ちあがると逃げだしてしまいました。海を眺めに行ったのです。あとに残ったあなたの淋《さび》しい表情が、形容のつかぬ残酷《ざんこく》さで黙殺《もくさつ》できると同時に、あ
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