ぼくはサイクロレエンから降りたった後、なにもかもが飛び去ったあとのような心地よさで独り、岸にたち、潮風に、髪の毛をなぶらせながら、青黒くひかる海を、虚心《きょしん》に、眺《なが》めていました。
その後、羅府《ロスアンゼルス》動物園へ、選手一同|赴《おもむ》いた折にも、巨《おお》きな象の二三頭が、放し飼《が》いになって自由に散歩しているあいだを、内田さんと手を繋《つな》ぎ歩いているあなたの姿をお見掛《みか》けしたことがあります。
その朝、ぼくはデレゲェションバッジをなくなし、皆《みんな》にまた口汚《くちぎた》なくいわれる疑懼《ぎく》と、ひとつは日頃嘲弄《ひごろちょうろう》される復讐《ふくしゅう》の気持もあって、実に男らしくないことですが、手近にあった東海さんの上着からバッジを盗《ぬす》み、東海さんの困却《こんきゃく》をまのあたりみせられ、些《いささ》か後悔《こうかい》の念に駆《か》られ、良心の苛責《かしゃく》もひどかったときなので、ともすれば見失いそうな自分の姿を掴《つか》まえる為《ため》、すっかり茫然《ぼうぜん》としていて、近くにあった、あなたの姿にも、痛いものをみる想《おも》いで眼をそらした。
その癖《くせ》、そのときでも、あなたが見えなくなると、バッジの件を考える苦しさよりもあなたを想う甘さに惹《ひ》かれるのでした。
そうしたときでも、いつもあなたには逢いたいような、逢いたくないような気持が、例《たと》えば、『逢わぬは逢うにいやまさる』といった都々逸《どどいつ》の文句のように錯綜《さくそう》して、あなたを慕《した》っていたのです。
マウントロオで、ケエブルカアから降りて村川と二人、養狐場《ようこじょう》のほうへ行きかけると、すれちがった若い亜米利加娘《アメリカむすめ》が二人、とつぜんぼく達を呼びとめ、ぼくの持っていたカメラで撮《うつ》してくれというのです。たいへん朗《ほが》らかな、可愛《かわい》い娘さん達なので、喜んで、一緒に写真をとったり名刺《めいし》を貰《もら》ったり、手振《てぶ》り身振りで会話をしたりしました。そうしたとき、奇妙《きみょう》に強く、想われるのはやはりあなたの面影《おもかげ》でした。
ホワイトポイントヘ魚釣《さかなつ》りにも行きましたが、ぼくは釣なぞしたことがないので、無闇《むやみ》やたらにそこいら辺を歩きまわっただけでし
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