した。まるで、泰西《たいせい》名画のみごとな版画をみているように、湿《しめ》り気のない空気が、全《すべ》てのものを明るく、浮立《うきた》たせてみせてくれるのでした。
突然《とつぜん》、ぼくの脇《わき》に坐《すわ》っていた、坂本さんが、ぼくの横腹をこづきます。ひょいとみると、女子選手ばかりを乗せた、前のバスが、おくれて、こちらの車台とくっつきそうになって走っています。その背後の座席に、あなたが坐っていて、人形をかざし、こちらに見せびらかすようにして顔を硝子《ガラス》に押《お》しつけていました。
硝子窓に潰《つぶ》され、凹《へこ》んだ鼻をしているその顔がまるで、泣きだしそうな羞恥《しゅうち》に歪《ゆが》んでおり、それを堪《た》えて、友達と笑い合っては、道化《どうけ》人形を踊《おど》らせ、あなたは、こちらの注意を惹《ひ》こうとしていました。恐《おそ》らくぼくを笑わそうとして、無理におどけてみせてくれるのだと、ぼくは考えあなたの故意《わざ》とらしさが悲しく、あなたに似合わない大胆《だいたん》さが苦々しくて、ぼくにはそのとき、あなたが大変、醜《みにく》くみえた。
とうとう、前の車が故障でとまり、みんながぞろぞろ降りだしたのをみたとき、ぼくは顔をまともに合せたら、あなたが、どんな表情になるか、眼に見える心地がして、そればかりが気懸《きがか》りになりました。
果して、あなたはピエロ人形を片手に、踊らせながら、やはり、泣き笑いみたいな顔で、ぼくのほうをちらっと見たが、ぼくが笑いもせず、反《かえ》って視線のやり場に困った鬱陶《うっとう》しい顔をしているのをみると、あなたは、面を伏《ふ》せ、くるりとうしろを向き、ひとりで、バスに乗ってしまった。車が出て、背後の硝子窓に凭《もた》れかかった人形は、あなたの手と一緒《いっしょ》に再び踊りだした。しかし、顔をみせない、あなたが、友達と笑いあっているのか、ひょっとしたら、泣いて慰《なぐさ》められているのか、想像のつかないまま、あなたの肩《かた》は震《ふる》えていました。
ぼくは一体、人目を憚《はば》かったのか、それともそうしたあなたが嫌《きら》いだったのか、それも判《わか》らぬ複雑|奇怪《きかい》な気持で、どうでもなれとバスに揺《ゆ》られていました。気の弱い、我儘《わがまま》なぼくも厭《いや》だったし、あなたも厭だった。
そうして、
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