うな建物に、貧富《ひんぷ》の懸隔《けんかく》につき、考えさせられることも多かった。
 聖林《ハリウッド》に入ると、フォオド・シボレエを自動車《カア》ではなく機械《マシン》だと称する国だけあって、ぼく達の車も見劣《みおと》りするような瀟洒《しょうしゃ》な自動車が一杯《いっぱい》で、建物も白堊《はくあ》や銀色に塗られたのが多く、光り耀《かがや》くような街でした。ぼく達はフォックス撮影所《スタディオ》の前で降り、所内の見物からはじめました。セットに、山あり海あり、冬景色あり夏景色あり、汽船あり、汽車あり、支那街《シナがい》あり水の都ナポリありで、ぼくは歩いている中、なにか、サンボリストの詩みたいなものを感じ、ひどく興奮しました。
 昼食を、所長さんの御招待で頂き、サアビスに踊《おど》ってくれたのが、当時のスタア、ロジタ・モレノ嬢《じょう》でした。まるで、人形のような端正《たんせい》さと、牡鹿《めじか》のような溌刺《はつらつ》さで、現実世界にこんな造り物のような、艶《あで》やかに綺麗《きれい》な女のひとも住むものかと、ぼくは呆然《ぼうぜん》、口をあけて見ていました。最後に、ステップ、ウインク、投げキッスと、三拍子《さんびょうし》、続けてやられたとき、その濡《ぬ》れたような漆黒《しっこく》の瞳が、瞬間《しゅんかん》、妖《あや》しくうるんで光るばかりに眩《まば》ゆく、ぼくは前後不覚の酔《よ》い心地でした。
 そのとき、やはり、心持ち唇《くち》をあけてみていた、あなたの小さい黄色い顔が、ちらっとぼくの網膜《もうまく》を掠《かす》めました。

 帰りには、チャイニイズ・グロオマン劇場で、オニイルの奇妙な幕間狂言《ストレンジ・インタアルウド》[#「奇妙な幕間狂言」にルビ]という映画の封切《ふうきり》に招待されました。その時はもう、接吻の長さだけ気になる、ぼくは、痴《うつ》けさでした。

     十九

 また暫《しばら》くして、日本選手一同が揃《そろ》って、ベニスという下町へ遊びに行った日がありました。附近《ふきん》で、いちばん大きなダウンタアオンで、途中《とちゅう》の風光の美しさも類のないものでした。
 碧《あお》い海に沿った、遠くに緑の半島が霞《かす》み、近くには赤い屋根のバンガロオが、処々《ところどころ》に、点在する白楊《はくよう》の並木路《なみきみち》を、曲りまわって行きま
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