を前にし、軽くオオルを動かしている幻想のよみがえる時がある。例の神を涜した為、未来|永劫《えいごう》にわたり幽霊船の船長として憩いの許されぬ“さまよえる和蘭人[#「さまよえる和蘭人」に《フライング・ダッジマン》のルビ]”でさえ、女性の無償の愛が得られれば許されるという中世紀伝説があるのだ。だから中世紀敗戦日本の安っぽい、勝手に死者を気取ったぼくが未だに、こうした伝説に憑かれ、またの日、もう一度、そうした日があり得ることを秘かに信じ、その時に自分の復活があると、待望するのも可笑しくないだろう。
(ではその日まで、さようなら。ぼくはどこかに必ず生きています。どんなに生きるということが、辛く遣切れぬ至難な事業であろうとも――。)
[#30字下げ](一九四九年一一月)
底本:「別れのとき アンソロジー 人間の情景7」文春文庫、文藝春秋
1993(平成5)年3月10日第1刷発行
底本の親本:「現代短篇名作選2」講談社文庫、講談社
※本作品中には、身体的・精神的資質、職業、地域、階層、民族などに関する不適切な表現が見られます。しかし、作品の時代背景と価値、加えて、作者の抱えた限界を読者
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