がりました。
ある人はこんなふうにいいはるのです。
「あの子は悪魔どもの助けで狩をしているのだ。それで狩がうまくいくんだ。悪魔どもといっしょでなくて、ああ都合よくいくわけがあるものか」
するとこう答える人もありました。
「悪魔ではなくて、いい幽霊が手伝っているのかも知れないぞ。あの子のお父さんは立派な狩人だった。だから親爺《おやじ》の幽霊が、自分の子供を立派な我慢づよい利口な人間にしようと思って、手伝いに出て来るのかも知れないからなア」
四
それは兎《と》に角《かく》、キーシュの狩はその後も成功つづきです。意気地《いくじ》のない村人たちは、彼が取った肉を運ぶのに忙《せわ》しいという有様でした。彼は、彼のお父さんがそうだったように、自分の取って来た肉を皆に分けるのに、至極《しごく》公平で、一番力のないお婆《ばあ》さんや、年をとったお爺《じい》さんがきちんとした分けまえを受けとるようによく気をつけ、自分では、いるだけよりも余計な肉を決して取っておこうとしませんでした。
このためと、また狩人としてのそのすぐれた力のために、彼はだんだん村人たちから尊敬され、おそれられさえするようになりました。彼をつぎの頭《かしら》にしようという話さえ起って来ました。こうなってみると、皆は彼がまた寄合《よりあい》に出てくれればよいと思うようになりました。しかし彼はどうしても出て来ません。皆の方では前のことがあるので出てもらいたいと頼むことが出来ないで困っていました。
ある日、キーシュは頭や村の狩人たちにいいました。
「僕は雪小屋を建てたいと思っているんですがね。僕とお母さんが居心地よく暮せる大きな雪小屋でなくっちゃいけないんです」
「うん」
皆は真剣な顔をしてうなずきました。
「けれども僕には暇《ひま》がないんです。僕の仕事は狩だ。狩でちっとも暇がないんです。僕の取って来る肉を食べてる村の男の人たちや女の人たちが、僕に雪小屋を建ててくれないでしょうか」
そこで、村の頭の住居《すまい》よりも大がかりな雪小屋が出来あがりました。キーシュとお母さんはそこへ移りました。これはお母さんにとって、夫に死にわかれてこの方、はじめての満足でした。
しかし、大きな家に住めるというようなことだけが彼女のよろこびではありませんでした。彼女は、すばらしいむすこのお蔭で、いつの間にか村で一番の
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