からからかったり、馬鹿にしたわらい声を投げつけたりしましたが、キーシュはかたく口を結んで、しっかり真正面を向いてふりむきもしませんでした。

  二

 翌日彼は、どこへゆくのか、氷と陸地がつながり合う海の縁《へり》を歩いてゆきました。彼に出会った人は、彼が弓と骨の矢尻《やじり》をつけた沢山の矢を持ち、お父さんが狩に使っていた大きな鎗《やり》を、小さな背中に背負っているのに気がつきました。皆はこの小生意気なふうてい[#「ふうてい」に傍点]を見て笑いました。そして寄るとさわるとキーシュのことばかり話し合いました。こんなことはこれまでにないことです。彼のようなかよわい年で、狩に出かけた者は一人だってありません。まして一人っきりで出てゆくなんて思いもよらないことでした。中には心配そうに首を傾《かし》げたり、可哀《かわい》そうなことが起りはすまいかと、つぶやいたりする人もありました。村の女たちが気の毒そうな目で母親の方を眺めるので、彼女の顔は沈んで悲しそうでした。
「なアに、じきに帰って来るでしょうよ」
 女たちは、キーシュのお母さんに、元気をつけるようにいってくれます。
「勝手にゆかせる方がいいんだ。それがあの子のためになるんだ。すぐに帰って来るさ。そして、これからはもっとおとなしい口をきくようになるだろうよ」
 男たちはそんなふうにいいました。
 一日たち、二日たちました。そして三日目には激しいはやて[#「はやて」に傍点]が吹きました。しかし、キーシュは帰ってきません。お母さんは見るもいたましい悲しみようです。女たちは、皆がキーシュをいじめて、死にに出してやったといって、ひどい言葉で男どもをせめました。男たちは今更《いまさら》なんとも返事ができず、嵐がしずまったら死骸《しがい》を探しにゆこうかと、その支度《したく》をしはじめました。

  三

 ところが、翌朝早くキーシュは悠々《ゆうゆう》と村の中へ入って来ました。きまりの悪そうな顔などしていません。背中には殺した獣《けもの》から切りとったばかりの生々《なまなま》しい肉を背負っています。勿体《もったい》ぶった歩きぶりだし、えらそうな口のきき方です。
「さア村の人たち、犬に橇《そり》を引っぱらせて、たっぷり一日ばかり僕の足跡をつけてさがしにゆくがいいよ。氷の上に肉が沢山あるはずだ――雌熊《めすぐま》が一匹、おとなになりか
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