と並んで立っていた。
監督の眼を追って、頭の上を見上げた一男の顔からも血の気《け》が消えた。
十五メートルもあろうかと思われる、途方もなく大きな鉄の梁《はり》が、起重機から、わずかに一本の鎖で危く斜に支《ささ》えられて、ふらりふらりとさがっているのだ。どうした間違いか、もう一本の吊鎖《つりぐさり》が外れたのだ。その拍子《ひょうし》に、人夫たちのたぐり寄せていた引綱《ひきづな》も、彼等の手からぐいっと持ってゆかれて、すべり落ちてしまったのだ。平均を失ったその鉄の梁は、今にもずるずると滑《すべ》って、骨組だけの八階建のその大建築を、てっぺんからぶち抜いて、がらがらと落ちて行きそうだった。
早くなんとかしなければ――だが、その時一男少年は思わずぐっと唾《つば》をのみ込んだ。彼は一人の職工が一番高い梁の上にまたがったまま、ぐったりとうつぶしているのを見つけ出したのだ。外《はず》れた鎖《くさり》のさきが、大きく揺れる時彼の頭を撃ったものに相違《そうい》ない。彼は明らかに気を失っている。その上、彼が跨《また》がっている梁の片端は、さし込んであった支柱からぐいと外れている。吊った鎖が外れた途端、今|斜《ななめ》にぶら下っているあの梁が、その職人の跨がっている梁に衝突したのだ。あのガーンという恐しい音響は、その時一男の耳を撃ったのであった。亀の子のように空中で首を振っているあの大きな梁が、彼の乗っている梁にもう一度ゴツンとでも触《ふ》れて見ろ! 一男は目をつぶった。
五
だが、岸本監督はさすがに落ちつきをとり戻して、機敏《きびん》に頭を働かせていた。今こそ一男を使う時だ! 大人《おとな》がのればあの梁《はり》は落ちる。だが子供なら……そうだ、一男なら大丈夫だ。
「君、怪我人《けがにん》を助けに行ってくれ。頼む!」
その言葉より早く、一男の靴が飛んだ。監督は輪《わ》にした綱《つな》を彼の首にかけた。最初に太いのを、次に細いのを。
「いいか、さきに、怪我人を梁へしばりつけるんだ。それからあのふらふらしている鉄材に太い方の綱をかけて来い。落ちついてやれ。踏《ふ》み外《はず》したらおしまいだぞ。あわてるなよ」
一男は、上を睨《にら》みながら岸本監督の言葉を聞いていた。分かった。あそこでああして、ここでこうして――彼は仕事の手順を、もう一度自分で腹へたたみ込んだ。深く息を
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