のものの本質よりも、我々が日常使用している言葉と、その対話、その演説は、これでよいのだろうかという疑問を抱くことになる。米人の偉大なる体格美を仰ぎ見て、我々の繊弱な素質を危ぶむごとくに、精神的低迷の瀬戸際に立たざるをえないのである。
洋楽の優秀なることは、何人も異議のない点であるが、さりとて、日本音楽も亦捨て難き情緒ありなぞと、自己満足をする時代ではないことも心得ている。心得ておりながらモットよい音楽がほしい、出来るかもしれない、世界共通の音階と譜面と、その融和性とは、かならず新日本の音楽が生れ、独特の国民性は何かの機会において顕れるであろう、という気長い心持からも、私はそう失望ばかりしては居らなかったのである。
然るに、今度こそは断然見限らざるを得なかった。それは進駐軍のラジオを連日聞いたからである。彼等の組織的プログラムの整然としてバラエティに富み、その内容の充実したる、何曜日何時には何か聴けると待ちこがれる音楽の楽しさ。私は唖の旅行において、外国の芝居や、寄席や、あらゆる興行ものを見聞した時は、深く感じなかったが、彼等のラジオ芸術の普及的勢力と、面白く引きつけてゆく企画など、
前へ
次へ
全22ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 一三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング