激を見て、帝劇を出ずる時、しばしば振返って別れを惜しまざるを得ないのであった。それは、帝劇再興の私の計画が、又しても徒労に帰せんとする運命を自覚したからである。

        洋楽と邦楽について

 帝劇ぐらい、営利的興行の立場から経営至難の劇場は少いであろう。大劇場による収容人員を標準にして、各劇団が組織せられているから、僅かに千人近い客席を持つ帝劇の立場が至難であることは自明の理である。
 そこで、私はわが国放送局の事業に対し、当然革命的胎動の起りうる機運を逸すべからざるを痛感した。帝劇こそ、正に、我々民間人の創設すべき放送局の候補地であるべきを空想せざるを得ないからである。
 民間放送局! の夢は破れた。
 この八月の上旬から、軽い胃腸カタルに冒されて横臥した。家人からは鬼のカクランだと嘲笑されたにもかかわらず、私自身は五、六日静養のやむを得ざる機会に、非常な拾いものをした。それは退屈まぎれに朝から晩までラジオを聞いたことである。
 放送の種類と、内容と、前々からその貧弱さは承知して居ったが、一日聞いていると、如何にもなさけない程その低級さと貧弱さがわかって、結局日本の音楽そ
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