、どんなにか影響するだろう。いろいろ考えさせられたのである。」
 この劇場に大統領が臨席されたように、日本においても、一つ位営利を離れて、社交の中心となる劇場が必要である。そうだ、日本に帰ったならば帝劇を買収して、高貴の御方や、貴顕紳士の社交場として、東京会館と相俟って、文化の殿堂を建設しよう。日本の社交は、今なお花柳界の力をかりるにあらざれば乾燥無味で、成立しない現状である。そこに、新橋柳橋赤坂は言わずもがな、清く、正しく、美しい社交的施設がゼロであるからである。私はまず第一に、社交の中心を帝国劇場に引寄せ、そこに重点的に、あらゆる施設を充実せしむることが出来るならば、花柳社会の陰影から、明朗高潔の天地を築き上げることができると確信した。
 そして、東京会館と帝劇とを買収すると同時に、も一つ、八層高楼の帝劇会館を右側の空地に建設し、地下道による東京会館と、高橋による帝劇会館との連絡を左右に結び、中央帝劇をして国際的公会堂の性質を持たせ、集会宴席は勿論、公共的であり、倶楽部的であり、個人および国際の便益に奉仕し、ここに芸能本陣の最高峰を築き上げて見たい――という理想は、日支事変と共に一
前へ 次へ
全22ページ中13ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小林 一三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング