憲兵が警戒している。その中央を海軍大臣の御案内で、大統領閣下は燕尾服に赤い広幅の勲章のリボンを斜めに飾って、令夫人御同道にて入場あらせられるのを、私は外交官席の後に立ってお迎え申し上げたことは、何という偶然の幸福であろう。
ラッパの音が高く響いたと思うと、あたりがいつとなく静かになり、水兵が二人、鎗を持って露払いのように先導して入場してくる。それから、二、三人の閣僚や、軍令部長などが大統領の前後に、三々五々群をなして、話しながら、平凡に、歩行をつづけ、外交官席に近づくと、一々握手したり、敬礼を受けたり、手軽に挨拶をせられて居られた。大統領夫人も亦同じく御如才なく、夫人方に握手せられておった。
流石に自由を尊ぶ共和国の光景で、一寸想像が及ばない。不思議に思ったことは、この劇場つきのロジイの鍵を持っている老婆や、外套を預かる番人の老婦や、それ等の使用人が平然として、いつもの通り自分達の席に腰をかけて、大統領の御通行を見物して居るのは、習慣とは言え、日本に見られない図であった。
大統領が御着席あらせられるその席の下の方に、臨時に出来たオーケストラから国歌の音楽が響き出すと、全員起立、音
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