先駆者の力によらなければかの仏蘭西《フランス》革命の巨濤も遂に社会をその根底から震憾させることは出来なかつたであらう。大事は常に小事によつて先立たれてゐる。かくてカミイル・デスモリンの熱烈なる雄弁はバスチル牢獄と苛酷なる政治とあらゆる伝習とを顛覆するエリコの前の喇叭《ラッパ》であつた。
 如何なる時代に於ても少数者は常に偉大なる思想と自由の旗幟《きし》を真先に翻がへすのである。鉛の如く縛されたる群衆は何事をもなし得ない。この事実は露西亜《ロシア》に於て最も力強く証明せられた。数千の生命は血政のために犠牲となつた。しかもかの玉座の怪物は依然として滅ぼされない。最深最善の情緒が鉄の軛《くびき》の下に呻吟しつつある時、如何して文学、教養、思想の発達進歩を見ることが出来やう? かの惰眠を貪る不活溌愚昧の露西亜農民は言語に絶する悲惨、闘争、犠牲の一世紀を経たる後もなほ『白き手の人々』を絞殺せる縄は幸運の御咒《おまじない》になると信じてゐるのである。
 亜米利加に於ける自由獲得の歴史に於ても多数者は常にその障碍《しょうがい》である。今日に於てもなほジヤフアソン、パトリツク・ヘンリイ、トーマス・ペイ
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