明である間は生命、真理、正義の芽を保存してゐた。然しながら多数者がそれを捉へた瞬間、その偉大なる主義は一種の符諜となり、到る処に苦痛と災厄とを伝播する血と火の先駆者となつた。カルヴイン、ルウテル等の巨人が羅馬《ローマ》の万能に対する攻撃は夜の暗黒に輝く旭日の如くであつた。然しながらルウテルとカルヴインが政治家と変じ貴族並びに群集精神に呼応し初むると同時に彼等は改革の本旨を危地に陥れた。彼等は多数者の味方を得て遂に成功した。けれどもその多数者はかの旧教の怪物《モンスタア》と同じく理想と理性に対する残酷な迫害者であつた。群集の輿論の前に低頭せざる少数異端者は禍なるかな。不断の熱誠と忍耐と犠牲によつて人心は遂に宗教的妄想より覚醒し、初めて自由なることを得るのである。少数者は新なる勝利の前途に猛進する。然るに年と共に虚偽に変りゆく真理を背負ふ多数者は疲れたる歩みを常にひきづツてゐるのである。
 王者及び圧制者の権力に反抗して一歩一歩自己勝算の道を踏みしめつゝ悪戦するジヨン・ボール、ワツト・テイラア、テルの如き巨人等が沢山出て来なければ人類は永久に絶対的奴隷状態を脱することは至難であらう。個人的
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