ある。富豪とその哀れむべき犠牲者と、律法と威権の維持者と不幸なる犯罪者と、自由思想家と虚偽なる宗教伝道者と、流行界にときめく淑女と襤褸《ぼろ》をまとふ工女と皆な等しく社会主義者である。然るにかの五十年以前の真理は全く虚偽と変つてしまつた。当時の盛なる青春の意気と勢力と革命的理想とは悉く萎縮し去つたのである。何故にかくの如き現象が生じたのであらう? かの思想は今は美しき幻影ではなく、多数者の意志を基礎として行はるる『実際的計画』と変じたからである。政治権謀はとこしへに虐げられたる哀れな群集の称讚を歌つてゐる。
 私は全ての選挙者と共に如何に群衆が常に簒奪《さんだつ》せられ、利用せられつつあるかを知つてゐる。此恐るべき状態に対して当然責任を有すべきはかの寄生虫ばかりでなく、群衆それ自身であると主張したい。群衆は常にその主人に屈従し、鞭韃せらるるを好む。而も一度、朽廃せる制度と資本家の神聖に対する反抗の声の挙げらるる時、「十字架につけよ!」と真先に叫ぶ者は実に彼等である。群衆にして兵士たり、政治家たり、獄吏たり、死刑執行者たるの意志なくんば、如何にしてかの当局者と私有財産の存在を維持すること
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