一等の定食を取つてゐるのぢやないんですか?』私はホテル・ド・ルウロオプで、子供達が、ミルクや、ココアや米や、フアリナや、白いパンや、チヨコレエトや、それから肉類をすらも食べてゐたのを見たのだ。
 私の訪問客は笑つた『私の学校にいらつしやい。』彼女は云つた。『そして御自分で御覧になれば分りますわ。』

     五

 私は行つて見た、しかも一度きりでなく幾度も行つて見た。其処では私はメタルの裏を見た。が、それでも、私はまだそれ程容易にそれを信ずることが出来なかつた。其の学校には、六十五人の子供達がゐた。彼等の食物は極く僅かで、質もみぢめなものだつた。
 其の中の大多数は、彼等の家の者や親戚の者が田舎から送るいくらかのもので扶助されてゐた。彼等は、僅かに暖かい着物を着、大部分は靴なしであつた。私の友達は、自分の時間と全精力とを、教育部のいろ/\の役所で浪費してゐた。
 彼女は、其の六十五人の子供達の為めに二十本の木のスプーンを手に入れるのに二週間かゝつた。役所に入る順番の列の中に立つて高官に会ふのを待ちながらまる一と月も骨を折つて、二十五足の雪靴を貰つた。そして、それ等のものを、六十五人の子供達に、嫉妬や、憎悪の原因をつくらないやうに、悶着を起さないやうに分けてやるのには、深い思慮と、なか/\の機転が要る。
 私は其の学校を訪ねる度毎に、何処かに何かの悪い事があるのだと云ふ事がだん/\に分つて来た。ホテル・ド・ルウロオプで子供等が受けてゐる保護と、クロンヴエルスキイ・プロスペクトの学校で子供達の受けてゐるものとの間の差別にはほかにどんな説明がつくのだらうか?
 あそこでは、子供達は有らゆるものゝ最上のものを与へられてゐた。食物、着物、室、演奏会、舞踏――実は、一般の状態からするとそれは殆んど多すぎる程なのだ。
 そして、此処では、子供達はほんの僅かなものしか与へられないで、いつも飢えてゐる。しかも其の僅かなものでも、それを手に入れるには非常な困難をしなければならないのだ。

     六

 直ぐに私は少々の事実を知つた。ロシアでは、すべての子供の為めの着物や食物が充分になかつたのだ。そしてボルシエヴイキは、外国の使者や派遣員や、通信員やに見せるために、各都市に幾つかの見世物学校を置く必要を考へ出したのだ。子供は見世物になつた。機会毎に展覧に供されて、書きたてられた。
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