『現社会程結婚の悲劇と恋愛の浪費の多いことは恐らくあるまい。それがため社会は遂にその不幸を聞くべき耳を失なつてしまつた位である』とかの詩人は云つたがこれ程たしかな言葉はないのである。
 かの宗教家或は人道の志士が性的生活の罪悪並びに病症に起因する頽廃を指摘して道徳を説く時にそれを傾聴するものは社会の極めて少数なる人々である。吾人はそれを耳にする時頽廃の如何に恐るべきものなるかを知りそれに対して社会の意識が夙《つと》に覚醒せられたのではあるまいかと思はずにはゐられないのである。然るに実際の状態は未だ何人もそれを認めてはゐない。之は別段驚くにはあたらない。恋愛の人生に対する価値を否定し或は無視してゐると云ふことがその深い根柢となつてゐるからである。又数字によつて確かめられない人生の多くの不幸なる障害が同一原因に根ざしてゐるのであるといふことを説明されても、それを理解することの出来ぬ人のあるといふのも別段怪しむに足りないことである。
 世間一般の人々は隈なく探求して結婚の社会的価値を証拠立てんとする様々の議論を担ぎ出すものである。彼等は数字の上に数字を重ね自殺、罪悪、飲酒、疾病等による死亡
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