てゐる。大なる宗教的情操は全てに最も近附き易いものであるといふことが一般に信じられてゐる。併しこの位真理でないものは恐らくないであらう。宗教的情操は他の場合にあつて偉なる恋愛によりて深く動かさるるが如き人々の精神にのみ大なる発達を見るのである。故に精神は大なる感情の結合より生ずる時更らに偉大になることは明かである。而して理想的恋愛は愛の力と権利とを拡大するであらう。
現代に於けるが如く恋愛が未だ人生に於ける全ての勢力の中で最も侮蔑せられ、最も粗慢に取扱はれ、最も多く裏切られる時代にあつてはこの思想を充分に理解する人は恐らく少ないであらう。故に恋愛は何時か全く異なる形に於て現はれるであらうといふことは大なる理解を有する人でさへ殆んど思惟することが出来ないのである。人類が一歩一歩自己の道を進んで行くには先づ恋愛とその正道といふことを考へなければならない。何故なら人類はかくしてのみ更らに高き人道《ヒューマニティー》に到達することが出来るのであるといふ説を聞いて大抵の人々は疑惑の念を抱いて頭を振るのである。最高の教育を受けた人でさへダンテの所謂、intelleto d' amore(愛の智識)を欠いてゐる。或は少くとも恋愛修養が必要であるといふ理解を欠いてゐる。而してこれ等の言辞を以て徒らに全ての恋愛者の感情を膨脹せしめ遂に彼等を気球にて人生より高く飛翔せしむる誘惑の言葉であると見做してゐる。恋愛者は其処より自己に対する二重の尊敬に魅せられて人生を見下すのであると彼等は考へてゐる。言葉を換へて言へば人生に於ける恋愛の価値に対する凡ての弁護は、恋愛のために全ての他の人生の価値を軽視するものとして説明せられてゐるのである。
かくの如く云ふ人々は宗教が愛といふ範囲に於てのみ人を浄化し、又力を与ふるものであり、人間の精神はそれが何物かを愛してゐる程宗教的に、又宗教の必要を感じてゐるものであるといふ事実を知らないのであらうか、何故なれば精神の力量は制限せられてゐる。その精力が一方に注がれる時には同時にそれを他に与ふることは出来ないのである。恋愛といふものは全ての感情の中で最も精神を発展せしむるものであり、又最も統合的でもある。特に全ての愛の中の最高なるものを吸収する恋愛は霊肉の合致となり、個人的生活と社会的生活の一致ともなり、偉大にして神秘なる世界的薔薇《ワールドローズ》の花芯と
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