ててはゐない。而して自由結婚が屡々破壊せられるのは社会が自由結婚者を迫害するに多く起因してゐる。現在に於てすら法律は離婚に対して最も僅かの制裁をしか加へてはゐない、離婚を妨ぐるものは寧《むし》ろデリケートな感情、優しき良心、同情などいふ心理状態である。故に自由離婚は不真面目なる人々をして徒らに多大の自由を享楽せしむるものであるといふ反対論があるが、これは一応|尤《もっと》もな次第である。結局離婚問題はそれが現在の不幸を予防するとかしないとかいふ問題ではないのである。その主たる問題はその心理的効果が漸次美はしく権威ある恋愛生活を創造するに与《あず》かつて力あるといふ点である。
 この証拠は今迄継続せられてきた努力中に発見し得られるのである。両親がその子供の結婚――特に娘等の――を定めた時でも、或は「私は自分の恋人を得られるであらうかどうであらう?」といふのが第一の問題であつた場合に於ても大体の上から観察する時は当時の恋愛といふものは非常に精神的の性質を欠いてゐた。又全精神生活の上には殆んど何等の影響をも及ぼさず、内的調和といふ様なものの上にも別段の要求を持つてはゐなかつた。要《ようす》るに只だ外部の事にのみ力瘤が入れられたのであつた。併し現今では若き恋人等が通常自己の運命を定める時には、如何に豊富な色彩ある新しき精神的感覚、情緒、感動を示すかは彼等の霊性を洞察するの特権を有する人々には明かである。最も精神的な女子は自己の撰択に対して最も個人主義的な意志を現はしてゐる。若し彼女の情熱が呼び醒される前に男子の熱い息が額にかかる様なことがあればその男子の慾望の微かな予感すら彼女の感情を枯してしまふであらう。而して高尚な青年の間にもそれに対する同一の意志が徐々に発達し静かに自己の撰択すべき女子を待ち望んでゐる。そうして女子よりも迅速に進む慾求を止めてゐる。
 これ等の青年男女は既に長途の旅程を経過し、恋愛を通過して『自からを投げ出す』危険には陥ることがないのである。約言すれば、自由が開放した其勢力が自由の危険なる結果を防止してゐるのである[#「自由が開放した其勢力が自由の危険なる結果を防止してゐるのである」に傍点]。
『恋愛と結婚』の中に性的関係が普遍にして決断的なる意義と神聖を以て飾られなければならないといふ確信を私はこんな風に云ひ表はした。――恋愛は曾《かつ》て諸国民が敬
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