諸々の理想を創造する人間の力が永く進化の一要素であり、現在に於ける唯一の問題は『如何にせばこの力が進化中にあつて有益なる一動力となされ得るか』といふことであるのを忘却してゐる。
人種の改善に力を傾注すると云ふことは『恋愛と結婚』の中に私が説明して置いた通り現在の渾沌たる恋愛の状態より単一個人的恋愛に至る橋梁を架設するが如きものである。これは又恋愛がその不合理なる性質を免かるる唯一の道である。ゲーテは且て『恋愛に於て凡《すべ》ては冒険である、何故なれば凡てが機会にのみ待たれなければならないからである』と云つた。併しながら全てこれは未だ発見せられざる法則に対する他の名称に過ぎない。何時か我々は霊肉の愛情的不調和並びに或る人々の間に存する心理的不調和が消滅するの日に到達するであらう。何故なれば最高の幸福を経験せんとする事は万人の欲求であるからである。而して最高の幸福は心理的必然から多くの小なる感情を除去する寛大なる感情によつてのみ達せられるのである。然しながら前途は未だ極めて遼遠である。而してその間にあつてある人々はある個人に対して彼等の理想の完全なる体現を求めて得ざりしがために幾度も恋するのである。かくの如き人々は或る一人にその理想の一方面を発見し、又或る他の人にその理想の他面を発見する人々である。又ある人々は新なる精神の伴侶を発見する時は恰かも且て起らざりしが如く彼等の以前経来つた経験を悉く忘れ去るのである。或はまた一度深き恋愛に誤まられたる後最早進んで新なる経験を味はんとする能力を失ふが如き人々もある。
『恋愛と結婚』は新なる献身の念を有《も》つて人生の賜物を保護せんと決心せる若き人々に与へられたのであつた。故にそれ等の人々は道徳的法則が石碑の上に書かれたるに非ずして血肉の上に書かれたるものであるといふことを知つてゐる。而して彼等は恋愛中に発見する高尚なる幸福は人生に対する高貴なる職務にして神に仕ふるより敬虔の念に於て遙かに優れたるものであると感じてゐる。併しながら何処に恋愛の自由が終り新代の権能が始まるかは又彼等の決定しなければならない問題である。
生理的にも心理的にも最上の子孫を作る種々なる条件に対して吾人の智識は未だ極めて乏しいのである。故に恋愛理想主義者の信仰はかの進化の事実を無視せずと称する人々に比して更らに大なる社会的譲歩を得ることは出来ないのである
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