していて、全長は前者よりも稍長く、深さは略等しいと云って差支えなかったが、疑問は、それのみには止まらなかったのである。いずれも、傷の末端が、V字型をせずに、不規則な星稜形をなしていて、何か棒状のもので掻き上げたような、跡を留めているのだった。即ち、以上四つの創傷に就いて、その生因を瞼の裏に並べてみると、てっきり首尾を異にしているとしか思われぬような――まるで猫の爪みたいに、自由自在な隠現をするかのような兇器を、想像するより外にないのだった。法水は盤得尼を振り向いて、彼には稀らしいくらい、神経的な訊き方をした。
「何んとなく僕には、これが梵字のように思われてならないのですが」
「明らかにそうで御座います。これは、※[#底本が「訶」と注記した梵字(fig45230_01.png)、188−上−12](訶)と※[#底本が「口+羅」と注記した梵字(fig45230_02.png)、188−上−12](※[#「口+羅」、第3水準1−15−31])の二つで御座いまして、双方ともに、神通誅戮と云う意味が含まれて居ります」
と盤得尼は、妙に皮肉にともとれる微笑を湛えて云い返した。
「成程」法水は幾分
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