を圧し出して弁を唸らせる。所が、その一部が管中から吹き出てしまうので、それが竹質に吸収されて、膨脹は一端止み酒精は下降する。つまり、それが何遍となく繰返されるので、吹手が息を入れるような観が起る。そして、やがてそのうちに、酒精は跡方もなく消え失せてしまったのだ。だが支倉君、斯うして犯行の全部が判ってしまうと、犯人がヒステリー患者の奇怪な生理を遺憾なく利用したと云うばかりでなく、たった一つの小窓に、千人の神経が罩められていた事が判るだろう」
検事は息を詰めて最後の問を発した。
「そうすると犯人は――一体犯人は誰なんだ?」
「それが、寂蓮尼なんだよ」と法水は沈んだ声で答えて、熱した頬を冷やすように窓際へ寄せた。
「たしか、あの日に寂蓮尼が、大吉義神呪経の中にある、孔雀吸血の伝説と云う言葉を云ったっけね。所が、調べてみると、その経文の何処にもそんな章句はない。けれども、僕は経蔵の索引カードの中から、異様な暗合を発見したのだ。と云うのは、いつぞやの『ウエビ地方の野猟』と、大吉義神呪経の図書番号とが、入れ違いになっている事なので、意外にも片方になかった記述が、セントジョンの著述にある挿話から発
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