徐々に下ろして行ったのだ。それから、吊り紐を旧通《もとどおり》の位置にしてから、その裾を二列に合せて、四つの幡の裾を浄善の咽喉に当てたのだがね。然し、その頃から、干茎中の血液が次第に消失して行ったのだったけれど、それは前以って、自分の着衣に血痕を残さないため、犯人が小窓を開いて置いたからなんだ。当然そこからは、灼熱せんばかりの日光が差込んで来る。ねえ支倉君、血液の九〇%以上は水分なんだぜ。それが蒸発した後は、無論以前と大差ない重量になってしまうのだ。然し、その減量と収縮は、僕等が到着する迄の、二時間余りの時間内に終ってしまったのであって、発見した際に尼僧達は、玉幡の膨脹には気が付かなかったのだ。そうしてから、犯人は、愈最後の幕切れになって、あの金色燦然たる大散華を行ったのだよ。と云うのは、無論浄善の廻転にある事だが、その時尼僧の咽喉に喰い入っていた玉幡が、どう云う状態にあったかと云うと、急激な膨脹と収縮が相次いで起ったために、表面の金泥が浮き上って剥離しかかっていた所なので、あの猛烈な遠心力が、一気に振り飛ばしてしまったのだ。だが、そうした玉幡の廻転は、階下にいる推摩居士にも影響して、
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