めたと云うのが、残り二側の玉幡だったのだよ」
「そうすると、傷の両端が違っているのは?」
「それでは支倉君、硬度の高い割合に、血液のような弱性のアルカリにも溶けるものを、君は幾つ数える事が出来るね。例えば、烏賊《いか》の甲のような、有機石灰質を主材に作ったとしたら、その鉤は血中で消えてしまって、脱け出した時には、それが繍仏《ぬいぶつ》の硬い指尖に化けてしまうだろう。然し、その変化の中に、驚くべき吸血具が隠されていたのだ」そうして、法水の推理が愈眼目とする点に触れて行ったが、その真相を聴いた検事は、思わず開いた口が塞がらなかった。どうしてあの時、曼陀羅を一本だけでも切ってみなかったのだろうか。
「つまり、一番複雑に思われるものが一番簡単なんだよ。あの曼陀羅を作った原植物と云うのが、毬華葛《まりげかずら》の干茎だからさ。シディの呪術には、あの茎とテグス植物の針金状の根とが、非常に巧みに使われていて、それを馬鹿な馬来人《まれいじん》が驚いている始末だがね。あの茎の内部にある海綿様繊肉質は血であろうと何んであろうと、苟《いや》しくも液体ならば、凡て容赦しない。つまり、あの曼陀羅と云うのは数千本
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