せてしまったのだよ。で、最初まず、如何にして梵字形の傷跡が出来たか――それを説明しよう。一口に云えば、最初に向き合った二つの鉤が、推摩居士の腰部に突き刺り、それが筋肉を抉り切ってしまうと、続いて二度目の墜落が始まって、それまで血を嘗めていなかった残り二つの鉤が、今度は両の腕に突っ刺ったのだ。つまり、そこには到底信ぜられない、廻転がなければならない。けれども、それは勿論外力を加えたものではなくて、その自転の原因と云うのは、推摩居士の身体に現われた、斑点様の知覚にある事なんだよ。最初腰に刺さった二本がどうなったかと云うと、体重が加わって筋肉を上方に引裂いて行くうちに、左右のどっちかが、知覚のある斑点の部分に触れたのだ。そうすると、当然その部分に触れる度毎に、それから遠ざかろうとして身体を捻るだろうから、偶然そうして描かれて行った梵字様の痕跡が、左右寸分の狂いもなく、符合してしまったのだよ。つまり一口に云えば、推摩居士の自転が、轆轤の役を勤めたと云う事になるのだけれど、最後に筋肉をかき切って支柱が外れた際――その時、捻った余力で直角に廻転して墜落したのだった。そして、その肩口をハッシと受け止
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