夢殿殺人事件
小栗虫太郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)歴然《れっき》とした

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)創底が三|糎《センチ》程の

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「木+需」、第4水準2−15−67]
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  一、密室の孔雀明王

 ――(前文略)違法とは存じましたけれども、貴方様がお越しになるまで、所轄署への報告を差控える事に致しました。と申しますのは、まことにそれが、現世では見ようにも見られない陀羅尼の奇蹟だからで御座います。
 ある金剛菩薩の歴然《れっき》とした法身の痕跡を残して、高名な修法僧は無残にも裂き殺され、その側に尼僧の一人が、これもまた不思議な方法で絞り殺されているので御座います。そればかりではなく、現場には、この世にない香気が漂い、梵天の伎楽が聴こえ、黄金の散華が一面に散り敷かれているのです。ああ法水《のりみず》様、申す迄もなく終局には、この真理中の真理が大焔光明と化して、十方世界に無遍の震動
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