日末起ちゃんのお便りをみますと、あたくしの名を、刻んだほうの切り口から樹液が湧きだして、あなたのほうへ、涙のように流れていたとかいう話。
それであなたは、もしやあたくしに変りごとがあったのではないか、それとも、自分の足らなさからあたくしを泣かせたのではないかと、まるで、涙ぐんだような詑び心地で――かえって、あたくしのほうが泣かされてしまいました。
でも、大丈夫よ。
末起ちゃんが、護ってくれるあたくしに、なんの変りがあるもんか。熱線も、近ごろでは良く、希望が持てて来ました。だけど、ひところからみるとたいへんに瘠せて、いま、末起ちゃんが抱いたら羽毛のような気がするでしょう。
だけど、いいの……心配しないでね。
あたくしは、もし淋しくなったら死んでしまうでしょうが。まい日、末起ちゃんが来てくれるのに、死ねるもんですか。あたくし昼間は、強いてなにも考えずに眠りませんけれど、夜は、月明をえらんで里から里へとわたり、末起ちゃんの寝顔をそっと見てくるんですのよ。そして末起ちゃんも、おなじなのを、ようくあたくし知っています。
何故でしょう。なぜ二人は、こんなに愛しあうんでしょう※[#感嘆符
前へ
次へ
全25ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング