疑問符、1−8−78]
 それはね……なぜ太陽はかがやき子供は生れるかと、尋ねられるように、答えようがありますまい。あたくしも、ただ愛するから愛するとしか、いえません。おたがいに、女学校の二年と四年で知り合って、一年後には、あたくしのほうが療養所へ来てしまった……それだのに、かえって、末起はあたくしとともに病んでくれる。
 ねえ、いつか末起ちゃんが寄越した、泣けるような手紙ね。あれには……

 ――神さまは、お姉さまには病む苦しみを与えましたが、あたくしには、苦しみをともにせよと、お姉さまを与えてくれました。お姉さまの、病はいわば、あたくしの病気ですわ。ともに苦しみともに堪えて、この世を切り抜けよと、お験しになったにちがいありません――と。

 だけどもう、末起をこのうえ苦しめたかアない。そうなったら、いまの末起には、二重の負担ですもの。
 あなたの心配ごとって簡単で分からないけど……。お義父《とう》さまのこと、手足も口も利けない気味の悪いお祖母さまのこと、それから四、五年まえに殺されたお母さまのことなど――よく知っているだけに、あたくし気になりますわ。
 それに、寝ている間に髪の毛を切られたって、もしかしたら、お母さまが殺されるまえにあったと、同じことじゃない?
 末起、ねえ、強くなって……。あんたは、ここでぐんと強くならなきゃアいけないわ。あたくしには、暗い家庭にいる末起がどんなだか分る……。考えると、こう離れているのがもどかしくなって来る……。だけど、もともと末起はあたくし、あたくしは末起なんだから、どんな、距離や遠さがあったからって、問題じゃないと思うわ。
 末起、ねえ、すぐに詳しい返事を頂戴。
 そのあいだ、咳や熱がたかまるお姉さまを思うなら、はやく、一刻も急いでね。
[#地から2字上げ]あなたの、方子より
    ………………………
 相良末起の、母親が殺されたのは、四年ほどまえのことだった。
 石町《こくちょう》で、大光斎といわれる大店《おおだな》の人形師、その家つき娘の、末起の母親おゆう[#「おゆう」に傍点]はそりゃ美しかった。色白で、細面ですらりとした瘠せ形で、どこかに、人の母となっても邪気《あどけ》なさが漂っていた。
 ところが末起にとってみれば生みの父親であるところの、さいしょの養子は間もなく死に、二度目の、いまの謙吉は事業慾がつよく、連綿とし
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