申すものがございます。それは、今も申した心理見世物の一種なのですが、遠見では人の顔か花のように見えるものが、近寄って見ると、侍が切腹していたり、凄惨な殺し場であったりして、つまり、腸綿《はらわた》の形を適当に作って、それに色彩を加えるという、いわゆる錯覚物《だましもの》の一種なのです。そうしてみると、腸綿《ひゃくひろ》がとぐろまいている情態ほど、種々雑多な連想を引き出してくるものは外になかろうと思われます。すると、あの時の鵜飼はどうだったでしょうか。腹腔《はら》が岩片に潰されてしまって、その無残な裂け口から、幾重にも輪をなした腸綿《はらわた》が、ドロリと気味悪い薄紫色をして覗いておりましたわね。ああそうそう、あのブヨブヨした堤灯《ちょうちん》形の段だらだけは、貴方にはイ存知がないはずです。ですけど、私の眼にさえも、それは異様なものに映じておりました。多分それというのも、胆汁や腹腔内の出血などが、泥さえも交え、ドロドロにかきまざっていたせいもあるでしょうが、ちょうどその色雑多な液の中で、腸綿のとぐろがブワブワ浮んでいるように見えたのです。ですから、輪廓が判らずに、ただ色と光りしか眼に映ら
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