変貌には、純粋の心理的な原因があるにしても、鵜飼の場合をそうだとすることは、とうてい神業とするより外にないでしょう。たしかにあの男は、貴方の面形の中に、ぴったりと顔を埋めているうち、突然の駭《おどろ》きが、そのままの形で硬ばらせてしまったに相違ありません。だいいちあの、いかにも捏《で》っちあげたような不自然な形が、一方変貌という理論を、力テけていたのではないでしょうか」
それには、凄烈を極めた頭脳の火花が散るように思われたが、そこに達するまでの艱苦《かんく》には、さぞかし涙ぐましいものがあったであろう。滝人も、追想やら勝ち誇った気持やら苦悩の想い出などで、ひどく複雑な表情を泛《うか》べて黙っていたが、やがて口を次いだ。
「しかし、その次になって、貴方の口から吐かれた高代という言葉になると、とうていこのほうは、実相に近い仮説を組みあげることはできませんでした。私が執心に執心をかさねて、やっとのことで掴みあげたというこの一つでさえも、一端は言葉となって進行してはゆきますが、すぐに前後を乱してバラバラになってしまうのです。それで、私がわずかに拾い上げたというのも、たったこの一つだけなのでご
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