たか。そうなれば、誰しもそう信ずるのが、自然ではございませんかしら。それに、その事実を貼《は》り合わせたように裏書する言葉が、貴方のお口からも吐かれたのです。そのとき貴方は、鵜飼のラりで横向きに臥しておいでになり、眼の前にいるのが私とも知らずに、絶えず眼覆《めかく》しを除《はず》してくれと、子供のようにせがまれておりました。私も、大分刻限が経っていたことですから、たいした障りにもなるまいと思って、その結び目をやんわりと弛めてあげました。そして、幾分上のほうにずらせたとき、いきなり貴方は、両手を眩《まぶ》しそうに眼に当てておしまいになったのです。けれども、その時なんという言葉が、口を衝《つ》いて出たことでしょう。いいえ、けっしてそれは、眼の前にある、鵜飼の無残な腸綿《ひゃくひろ》ではないのです。貴方は、高代という女の名をおっしゃいました。高代――ああ私は、何度でも貴方がお飽《あ》きになるまで繰り返しますわ」といきなり滝人は、引っ痙《つ》れたような笑みを泛《うか》べ、眼の中に、暗い疲れたような色を漂わした。すると、全身にビリビリした神経的なものが現われてきて、それから、瘤《こぶ》の表面をい
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