が、滝人は素晴らしい虹でも見るかのように、その情景を恍惚《うっと》りと眺め入っていた。そして、自分が上がった階段の数を数えて、もうほどなく十四郎の前に廊下が尽きるのを知ると、彼女はその刹那《せつな》、襲いかかった激情に、押し倒されたかのごとく眼を瞑《つむ》った。と、プーンという弓を振るような響が起って、土台がからくも支えたと、思われるほどの激動が朽ちた家を揺すり上げた。すると、家全体がミシミシ気味悪げに鳴り出して、独楽《こま》のように風を切る音が、それに交った。しかし、その物音も、しだいに振幅を狭めて薄らいでくると、滝人はそれまでの疲労が一時に発して、もう何もかも分らなくなってしまった。しかしついに事は成就したのである。
 そうして、どのくらいの時間を経た後のことか、滝人の頭の中で、微かながら車輪のような響が鳴り出した。それは、挾まれた着物の端が、歯車の回転につれズルズル引き出されてくるといった感じで、何やら意識の中から眼醒めたいような感情が、藻掻き抜けてくるように思われた。すると、自分の現在がようやくはっきりとして、今まで一つの瀬踏《せぶ》みしかしなかったことに、彼女は気がついた。そ
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